2013年4月22日月曜日

ソウルで韓国人と靖国問題について議論した

こちらソウル大学国際関係学院では、毎週月曜日にはJapan Tableといって、お昼ご飯を食べながら日本語で日本について議論する会があります。今日は日本人学生が3人と、韓国人学生10人ほどでした。

今日のテーマは、昨日麻生副総理が靖国参拝し、今日韓国外相が訪日を中止することを明らかにしたことから、靖国問題が取り上げられました。

参考:
韓国新政権初の韓日外相会談が取り消し…靖国参拝に反発(中央日報日本語版)
<靖国神社副総理参拝>韓国外相が訪日取りやめ(毎日新聞)
韓国外交賞が訪日中止、閣僚の靖国参拝に反発(読売新聞)
質問なるほドリ:首相はなぜ靖国参拝したいの?(毎日新聞)

以下にどんなことが話し合われたのかを9つにまとめてみます。

1.上記記事にあるように侵略戦争を肯定していることを理由とした反発はあるものの、日本側として参拝の意図がそういうわけではないと説明することは韓国人学生も理解していました。

2.その上で、韓国が靖国参拝に反発する別の理由として、「靖国神社には戦争中に亡くなった中国人・韓国人も合祀されており、その違和感と気持ち悪さがある、ほんとは別にしてほしい」という指摘があり、
分祀ができない2つの理由が説明されました。
1つは遺族感情。「A級戦犯は戦争犯罪者ではないが、多くの戦死者を出した戦争責任がある。一般戦没者と一緒に祭るのには抵抗がある」と上記記事で語られている一方で、A級戦犯の遺族は、A級戦犯だけ別に祀られるのは嫌だという気持ちがあること。
2つ目に、宗教上の理由。一度合祀した以上、魂は混然一体となり、一部のみを取り出して別に祀る、ということはできないこと。

3.「なぜ隣の千鳥ヶ淵戦没者墓苑には行かずに、靖国神社のみに行くのか、靖国ばかり行くのはおかしいのではないか」という指摘がありました。
千鳥ヶ淵のことについては知らなかったですが、墓苑の墓を1つ1つ回ることはできないから1つにまとめてある靖国神社に行くのではないか、また、最近安倍首相は硫黄島を訪問したが、恐らく現地の慰安施設にも訪問してるはずで、日本全国回ることは日程上無理でも、硫黄島などそういう場所に行けば慰安施設を訪れるはず、ということが説明されました。

4.「靖国神社」ということがあまりに大きな問題になっているので別の慰安施設は作れないのか、という指摘に対しては、
恐らく、靖国神社の抵抗や、根付いた靖国神社という場所から魂を移せるものなのかという懸念が出るであろうことが出ました。

5.「靖国神社に行くことのイメージを変え、平和への決意として参拝することを示すメッセージを出すべきだ」との指摘には、
「参拝した閣僚はそういったコメントを出すものの、メディア上で強調されないのではないか」という指摘がされました。

6.靖国神社内にある遊就館の展示内容が、広島の平和記念資料館と比べて明らかに戦争を肯定的に捉えている、という指摘がありました。

7.昭和天皇、今上天皇は参拝をしていないことに、閣僚が行くことの正当性を疑う声も上がりましたが(靖国参拝は1985年に中曽根総理が始めた)、
肯定派の人は「私人の信条に干渉するものではない」という意見があることも出ました。

8.麻生副総理の靖国参拝に対する韓国の反応については、「またか」という感じで、数年前よりも反応が薄くなっている、という指摘がありました。数年前なら「靖国神社」が検索ワードでトップになっていたものが、今回はトップ10にも入っていないそうです。またそれが日本の狙いだろうという話にもなりました。

9.最後に、時間が経って安倍や麻生などの保守的政治家が政界からいなくなり、今の若い人が政界で重要な立場になれば誰も靖国に行かなくなり、問題解決するのではないかという意見がありました。
しかし、靖国参拝に意欲的だった小泉純一郎の息子である小泉進次郎が政界で若手のホープとしていることで、彼の信条はわからないが、時間による解決ができないかもしれないことも指摘されました。

【追記】以下は友人のコメントです。

どこまで掘り下げる(普遍的な論点に移していく)かだと思います。
僕が知っている範囲で一般的に言われる論点は、ブログで全て出ていると思いました。
最近の新聞各紙の論調を見ていると、ひょっとしたら対米関係にも目を向けると、日米韓で目指すべきソリューションの方向性が見えてくるのかもしれません。合理論でしか議論ができなくなる危険がありますが。あえて合理論で割り切るとしたら、日中韓で見てみるのも面白いと思います。(一回やったことがあるのですが面白かったです)
知ってる限りですと、もう一段掘り下げると、
・第二次大戦の評価(善悪)を下すのはだれか問題
→「近代の超克」(西洋列強文明追従からの脱却)であった戦争の側面を考えると、靖国に参拝し続けることは西洋諸国に対しての一種の意思表示になりうる、という主張。ただ、韓国の方にはちょっと「しっくりこない」論点だとは思います。
・罪は償われているのでは?問題
→一応、death by hangingによって「平和に対する罪」は償われているはずです。未だに罪を問うのであれば、どの期間で罪を問うのかの議論が必要です。
・帝国臣民問題
→当時、中韓は大日本帝国でした。植民地ではありません。立派な「本土」です。法学的に見れば、戦没者は帝国臣民として亡くなったはずです。(1910年の条約が正当か否かでモメそうですが)
もう二段掘り下げると
・国家形成(ネーション形成)における靖国の位置
→ネーション形成の根拠となる無名戦士の墓として存在する靖国神社であって、第二次世界大戦だけのマターではない。
・政教分離は本来的に不可能
→政教分離は、権力の二重状態を解消して国家を主権国家化するためのものです。したがって、主権が一極に集中していれば問題がないはずで、国民が主権を持っている状態では問題は発生しようもないはずです。その上で、国民を形成する際に用いられているのが靖国神社なので本来的に靖国から離れた政治は実行不可能です。
の5論点が出てくるようですが、ランチミーティングであるとのことなので必要ないかと思います。
あと、これは個人的なお願いなのですが、東条英機の処刑後について、是非参加者の方にお伝え頂ければなー、なんて思ったりしました。
東条英機の処刑は極秘裏に実行され、遺体は焼かれた後粉々になるまで米兵によってスコップで叩き潰され、その遺骨は余すことなく海へ「廃棄」されました。(オサマビンラディンの処理方法は東条の処理をベースにしたようですね)
キリスト教にせよ、仏教にせよ、イスラーム教にせよ、憑代が無くては、人物を聖化することはできません。その意味で、東条を聖化することは我々にはそもそも不可能です。そこの認識がひょっとしたらズレているのかもしれません。

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